2025年、3人に1人が高齢者(65歳以上)の時代に突入すると言われる今、認知症が身近な問題です。認知症は一度発症すると回復が難しいとされていますが、食事や栄養アプローチによって改善や予防ができることをご存じでしょうか? 今回は、認知症の原因に迫り、改善や予防のための食習慣についてみていきましょう!
認知症とは、記憶や思考などの認知機能が低下し、日常生活や社会生活が困難になる状態をいいます。原因や症状などから大きく「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」の3つに分類され、中でもアルツハイマー型認知症の割合が多く、全体の67.6%と半数を超えています。
厚生労働省によると推計では2025年に約675万人と、5人に1人以上が認知症になると予測しています。認知症患者の増加の背景には、様々な要因が考えられますが、その一つに「栄養障害」が関係していることが多数の研究でわかってきています。
脳のエネルギー源は、一般的にブドウ糖(グルコース)とされています。ブドウ糖は、代謝の過程で最終的に「アセチルCoA」という物質になり、エネルギー源になります。しかし、アルツハイマー症の場合は、何らかの原因で脳に溜まった「アミロイドβ」と呼ばれる特殊なタンパク質の影響で、アセチルCoAへの変換が阻害され、エネルギーが作れない状態となっています。
そのため、「脳細胞自体が破壊されているのではなく、エネルギー源のブドウ糖が使えない状態」にあることから、「脳の糖尿病」と考える医師や専門家は少なくありません。
実際に、アルツハイマー型認知症の患者のエネルギー源を、ブドウ糖ではなく脂質をエネルギー源とした「ケトン体」に切り替えたところ、認知機能が改善された事例が海外で報告されています。
脳のもう一つのエネルギー源であるケトン体は、脂質からつくられます。ケトン体生成には、「中鎖脂肪酸」が適しており、ブドウ糖に代わるエネルギー源として注目されています。
実際に、アメリカの小児科医メアリー・T・ニューポート氏は、若年性アルツハイマー病の夫の症状を、中鎖脂肪酸を多く含むココナッツオイルを使った食事療法で改善させ、病期の進行をとどめることに成功しました。
ニューポート氏は自著の中で「アルツハイマー病を発症して脳がブドウ糖が使えない状態に陥っても、ケトン体が供給され続ければ、神経細胞はエネルギーを産生し、その活性を保つことができる」と述べています。
このように、食事や栄養によって認知症が改善するケースは珍しくなく、近年ではレッドビーツやカカオなどの食品にも、認知機能の改善や予防効果があることがわかってきています。
レッドビーツに豊富に含まれる栄養成分は、血流障害を改善する働きがあり、老化した脳に対する神経可塑性効果(神経の働きを再生する脳の能力)が期待されています。
2022年の石川県立大学の研究チームによる発表では、レッドビーツの植物色素であるベタニンが、アルツハイマー病の原因の一つとされるアミロイドβの凝集を抑制する働きがあることを明らかにしました。
こうした植物由来の栄養療法や毎日の食習慣が、高齢化が進むこれからの時代を健康に生きぬくキーワードになると言えるのではないでしょうか。